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ヘイトウイルス 世にも奇妙な物語ネタバレ

とある広場で、

傷だらけの二人が互いを睨みつけながら、

対峙し合っていた。今にも飛びかからんとする

その二人を、

突如現れた防護服姿の集団が連れ去った。







連れ去られた内の一人が、

とある研究所の暗い室内で白衣の男に尋ねられる。



「何故あなたは渡辺さんを殴ったのですか?」

男は答えた。

「渡辺君がお金を返さないから…憎くて、憎くて」

「……間違いありません。

ヘイトウイルスに感染しています」







研究所所長に対し、

感染検査官サエキはそう告げる。






「気にする事ありませんよ。

全てヘイトウイルスのせいなんですから。

ワクチンによってウィルスが消え去り、

憎しみの感情も無くなりますよ」








――『50年前、人類は愚かな戦争を繰り返していました。終える事の無い憎しみと暴力の連鎖。それは全てウイルスの感染による物だったのです。ウイルスに犯された人間は衝動的な行動を抑えられなくなるのです。かつては人類の9割がヘイトウイルスの感染者でしたが、ドクターが開発したワクチンにより、戦争は完全に無くなったのです』――








研究所に隔離された男は、

ワクチンを投与されて落ち着きを取り戻すが、

まだ憎しみが湧いてこないか不安な彼に対し、

「通常のワクチンが効かないならより

強力なワクチンを投与するので安心してください」

と、ある部屋へと案内する。










テーブルの上にはナイフが二本。

そして男の前には重傷を負った渡辺。

ただそれだけの狭い部屋。






呆然とする男に、

「憎しみを持つ者同士笑顔で抱き合う事が出来れば、

普段の生活に戻る事が許されます」

とサエキは説明する。









彼自身も二年前に憎しみに支配された過去があり、

娘を殺した男への復讐を行おうと考えた事があったが、

ワクチンにより憎しみが消え、

殺した男と笑顔で抱き合い、

正気を取り戻せたのだと話す。










「だから、あなたもきっと出来ますよ」

そう言われた男と渡辺は、

互いにぎこちなく謝罪の言葉をかけ、抱き合う。










ゆっくりと研究所を後にする二人の姿を

所長と共に満足げに眺めていた時、

女性職員が飛び込んで来た。








「また感染者が出ました。

女性が殺されたそうです!」


「どこの地区ですか?」


「それが……サエキ先生の奥様です」

サエキは驚愕する。










「それと、感染者の方がサエキ先生に会いたいと…」

「……分かりました。私が診察します」

サエキは、妻を殺した相手と会う事となった。











所長は落ちついた様子で、

今回の感染者について女性職員に話し始める。





「クリタハジメ君。

彼は二年前、浮気していた交際相手を殺害。

彼はヘイトウイルスに感染していた。

その時殺された交際相手は、

サエキ先生の娘さんだった」






その時現場に駆けつけたサエキに、

クリタのヘイトウイルスが感染する。





そうして憎しみにかられたサエキは

復讐のためクリタを殺そうとするが、

止めに入った彼の母を

ナイフで刺し殺してしまったのだった。

その後ワクチンによって

サエキもクリタも互いに憎しみは消えたが、

クリタだけは再感染してしまったのだろう、

と所長は話す。










クリタを診察するサエキに、彼は飄々と話す。

「あんたの家に行ったら奥さんが出てきて、

うるせーから殺してやったよ」







その言葉に呆然とするサエキは、

「何で妻を……、彼女には何の罪も……」


「決まってるだろ。

そうしたら、あんたに会えるからさ!」



クリタはそう怒鳴るとサエキに飛びかかり、

防護服を破き、ウイルスに感染させる。


掴みかかろうとするサエキを、

所長は感染棟へ連れていく様に促す。






隔離されたサエキはパニック状態になり、

「この手であいつを殺してやりたい!」

と苛立ち始める。





「所長、レベル2のワクチンを投与してください。

でなければ憎しみに押し潰されてしまいます!」




サエキはそう叫ぶが、




「とりあえずレベル1の量を増やし、様子を見よう」

と所長は言う。






心配で様子を見に来た女性職員は、

彼を励まそうと

「ヘイトウイルスって本当に恐ろしいですね。

まさか先生が娘さんと奥さんを殺されたぐらいで

相手を殴るなんて、信じられません」

と声をかける。









その言葉に切れたサエキは、女性職員に掴みかかる。



「……お前に何が分かるんだ!」




平静と憎しみの間で揺れ動くサエキ。





「違うんだ……、これは俺じゃない! 

すべてヘイトウイルスのせいなんだ!」







怯えきった女性職員を放置し、

彼は部屋を抜け出してワクチンルームへと急いだ。






(ワクチンだ、レベル2のワクチンさえ投与すれば、

俺は治る!)





サエキはワクチンルームのロックを解除し、

部屋に飛び込む。







しかしそこにワクチンは無かった。







代わりに「UTOPIA PROJECT」

という名のファイルが一冊。

その内容は――







『憎しみの感情は”ヘイトウイルス”によって

生じると暗示をかける』





『次に”ヘイトウイルス”は、

ワクチンによって死滅させられると洗脳する』







「……ここに入るためには、

私の許可が必要なはずだよ」





レポートを読み呆然とするサエキの背後に、

所長が声をかける。

「どうやら知ってしまったようだね。真実を」









本当はヘイトウイルスなんて存在しないのだ。

一部の権力者達が架空のウイルスをでっち上げ、

ワクチンといって気休め

程度の安定剤を投与しただけだった。







「世界中を騙したのか!」







サエキは声を荒げる。

「サエキ君、大切なのはイメージだよ。

人類全員が信じれば、

存在しない物だって存在する事になる」








「これは人権を無視した犯罪です! 

様々な感受性を持って生まれた人類への冒涜です!」









「ならばどうするんだね? 

真実を公表すれば、

再び憎しみの感情の連鎖が広がり、

人類がようやく手にした

ユートピアを失う事になるんだよ」








「いいえ、そんな事はありません」

サエキは断言する。





「人間は、暗示や薬など無くても、

理性で憎しみを抑える事が出来るはずです」







「……ならば、君自身で試してみるといい。

今のそのままの状態で、

クリタ君と笑顔で抱き合う事が出来れば合格だ。

そのまま普段の生活に戻る事を許そう。

後は好きにするがいい。

真実を知った君に出来るかね? 

家族を殺した人間を許す事が」












「やってみます。必ず」










数時間後、サエキはクリタと対面する。

テーブルの上には、やはり2本のナイフ。

「悪かったね、クリタ君」

そのサエキの言葉にキョトンとするクリタ。

「二年前、お母さんを殺してしまって……」

弱々しく謝罪の言葉をかけるサエキに対し、

「あっは、なんだー、そんな事か」

クリタは笑う。

「気にすんなよ。

俺も先生の娘と奥さん殺っちゃったしさ。

あ、でも殺っちゃった物はしょうが無いし、

いいよね」






あっけらかんと話すクリタに、

再び憎しみの感情が沸き上がるサエキ。


必死で押さえ込もうとするも、

ナイフを取ろうとする手が止まらない。






そして、

「そんな事……気にしなくて、いいよ」

サエキは結局ナイフは手にせず、

絞り出す様にそう言葉を放ち、

クリタを抱きしめる事が出来た。






「勝った……! 俺は、憎しみに、打ち勝ったんだ!」

満足げな表情を浮かべるサエキ。









ザクッ……










突如、鈍い音に気がつき、サエキは違和感に気付く。


それは、

自分の腹に突き刺さったナイフのせいだった。





クリタによって刺された彼を、

所長は哀しげに眺める。






「サエキ君。確かに君はよく耐えた。

だが争いというのは、

片方が許しただけでは解決しないんだよ。

そして相手に憎しみが残っていれば、

それはウイルスの様に広がり、

再び互いに憎しみあってしまう。

我々人間は憎しみに無力だ。

だから必要なんだ。ヘイトウイルスの存在が」










「母さんを殺されて……許せるはずないだろぉぉ!!」








「ふざけんなよ……!

お前こそ大切な家族返せよぉぉ!!」






互いに罵り、憎しみあうサエキとクリタ。

「強制投与」

所長は無感情に職員にそう命じるのだった。